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仙台高等裁判所 昭和29年(ネ)556号 判決

控訴人(原告) 八重樫儀左衛門

被控訴人(被告) 岩手県知事

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を次の通り変更する。

被控訴人が昭和二十三年十一月一日附岩手県ち第六九六号買収令書を以て別紙目録記載(但し(18)を除く)の土地につきなした買収処分はこれを取消す。

控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人が昭和二十三年十一月一日附岩手県ち第六九六号買収令書を以て別紙目録記載の土地につきなした買収処分を取消す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は控訴代理人において、当審証人八重樫正道の証言を援用すると述べた外、原判決摘示の事実及び証拠関係と同じであるから、これを引用する。

理由

控訴人の別紙目録記載の土地中(1)乃至(4)及び(16)の土地が昭和二十年十一月二十三日現在において小作地でなかつた旨の主張については、当裁判所も次の点を附加する外原判決と同じ理由により、この点に関する控訴人の請求を失当と認めるので、ここに当事者間に争のない事実と共に原判決の理由記載を引用する。即ち当審証人八重樫正道の証言は採用し難く、他に右当裁判所の認定を左右するに足る証拠はない。

次に本件買収処分が、旧自作農創設特別措置法第三条第一項第二号に基く法定保有面積一町一反歩を侵害するとの控訴人主張につき案ずるに、この点に関する控訴人の主張事実中、少くとも三反二十三歩の限度において前記保有限度を侵害した事実は、被控訴人の認めて争わないところであるから、本件買収処分は控訴人の法定小作地保有限度を侵害した違法がある、而して別紙目録記載の土地中そのいずれの部分を買収するかは被控訴人の決定すべきところであつて、農地所有者はその選択権を有しない(昭和二十四年(オ)第一〇七号昭和二十八年十一月二十五日大法廷判決参照)ことは勿論、裁判所も亦これを特定すべき権限がないのであるから、これが超過部分のみを取消すべきものとせば原判決の如くする外はないのであるが、このような判決が確定した場合においても、特定の農地について当然生ずべき買収取消の効果が発生すべきいわれはないのであるから結局行政庁の新たな処分がこれを決定することとならざるを得ない。従つてそれまでの間は全部の買収土地が行政庁の裁量によつて何時如何なる範囲につき買収処分を取消されるものか判らないという安定しない状態に置かれ、この間新たな紛議紛争を惹起する虞も考えられるのであるから、このような不確定、不安定な法律関係をもたらすべき買収処分は、結局その全部を違法として取消されることはやむを得ないものといわざるを得ない。この点につき当裁判所は原審と見解を異にするので、別紙目録記載の土地中(18)を除く部分に対する本件買収処分は全部違法として取消すべきものとする。

次に別紙目録記載の(18)の宅地の内、四十二坪七合五勺に対する控訴人の請求が理由ないことについては当裁判所も亦原審とその判断を同じくするところであるから、ここに原判決の理由中この点に関する部分を引用する。

よつて爾余の点に対する判断を省略し、控訴人の請求は別紙目録記載の土地中(18)を除く部分については正当として認容すべきであるから、原判決はこれを変更すべきものとし、本件控訴は一部その理由があるので、民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第九十二条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

(目録省略)

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